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Sustainable Finance

製品原材料、食料、飼料と幅広い用途のある大豆は、食品関連を含む多業界にとって重要な原材料です。近年では、健康需要がささえる伝統大豆製品の底堅い消費に加え大豆ミート開発に注目が集まる等、新たな需要も生まれてきています。

一方、農業サプライチェーンは気候変動、生物多様性・生態系、労働者の人権等に関するリスクの高い分野とされており、特に大豆生産は耕作地拡大に伴う森林破壊が課題視されていることも大豆に関わる環境課題です。

これらのリスクはすでにEU市場への商品供給時の規制対象となっている他、リスクへの対応を進めることで金融機関からの投融資時に優遇措置を受けることができる等、大豆に関連する企業にとって経済インパクトのあるテーマとなってきています。つまり、大豆に関するサステナビリティの確保は慈善活動の範疇ではなく事業リスク管理の一環ということです。

規制の対象は大企業から始まることが多いですが、中小企業へとその裾野を広げ始めています。またいずれにしてもサプライチェーン上流でのリスク管理状況を問われているため、究極的には原材料や商品自体として調達している大豆の生産者までが対象となります。原産地の大豆生産者は小規模農家から大規模な多様な農家経営スタイルがありますが、そこでの気候変動、生物多様性・生態系、人権等のリスクが求められている時代になってきているという点に留意が必要です。

本ページでは、大豆関連で国際的に議論されている課題、事業会社への対応要請の内容をご紹介し、それに対し、アメリカ大豆輸出協会 (USSEC)が策定しているSSAP認証が、どのように活用できるかをわかりやすくお伝えします。

大豆生産の拡大に伴う森林破壊リスクを世界的に注視

近年、大豆を取り扱う企業に対する規制や情報開示要請の声が高まっていますが、その背景には気候変動と自然資本の喪失等に伴う社会・経済的なインパクトが科学的に解明されてきたことがあります。気候変動は、一般にイメージされる気温上昇に加え、100年に1度と言われてきた規模の自然災害の増加という形ですでに影響が顕在化してきています。

事実、世界経済フォーラムが毎年発表しているグローバルリスク報告書では、2016年に「気候変動の緩和・適応の失敗」が最も潜在的影響が大きいグローバルリスクとされて以降、2024年版まで気候変動関連が常に上位のリスクとして位置づけられています。また、「自然災害や異常気象」、「生物多様性喪失と生態系崩壊」等も上位リスクの常連となっています。世界経済フォーラムは、経済・政治・学究等の分野のリーダーが連携し、世界情勢の改善に取り組むことを目的として設立された国際機関です。ここからも世界的なリスクと認識されていることが伺えます。

(出典)World Economic Forum Global Risks Perception Survey 2023-2024

例えば気候変動に関しては、原因として温室効果ガスの排出が挙げられます。温室効果ガスというと、石炭・石油・鉄鋼等の業界の話のように思われがちですが、実は食品業界は世界全体の排出量の3分の1を占める高排出業界です。特に大豆に関しては、急速な生産拡大に向けた森林伐採や土地利用変化が、重要な二酸化炭素の吸収源の破壊につながっていることが課題視されています。また、大豆生産時の肥料に含まれる窒素・リンについても、肥料が土壌の微生物により分解される際に温室効果ガスの一つである一酸化二窒素が発生するため、肥料の過剰散布は注視されるようになっています。

従来通りの温室効果ガス排出を続け、気温上昇が止まらない場合、前述のグローバルリスクで列挙されていた自然災害や異常気象、生物多様性喪失と生態系崩壊を引き起こし、大豆産業としても収量の低下という形で影響を被ることが科学的に分析されています。

(出典)IPCC

自然資本への関心の高まりとTNFDへの対応における大豆の重要性

さらに近年では、気候変動と生物多様性喪失、生態系崩壊等との関係性も明らかにされてきています。2019年5月には、生物多様性と生態系サービスに関する政府間プラットフォーム(IPBES)が世界初の包括的な科学報告書を発表。自然が人類に様々なサービスを提供していると捉える考え方である「生態系サービス」が破壊されれば人類の生活が破壊されること、そしてその直接的要因として「土地・海域利用変化」「直接採取(乱開発)」「気候変動」「汚染」「侵略的外来種」の5つを特定しました。

この報告書を皮切りに気候変動に並ぶテーマとして自然資本に関する議論が高まり、2022年12月には、国連生物多様性条約の第15回締約国会議(CBD COP15)にて「昆明-モントリオール生物多様性枠組」が採択。2023年9月には、自然資本観点で企業が抱えるリスクと機会に関する情報の開示に向け、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)から、フレームワークの最終提言が公表されるに至りました。

自然資本に関する情報開示では、自社のビジネスの自然資本に対する依存やインパクトを分析し、そこからのリスクや機会を明らかにする必要があります。また自然への依存度やインパクトは、「場所」特有の影響もあるため、場所の特定が求められるのも特徴です。例えば大豆の森林破壊については、アマゾンでの森林伐採が話題に挙がることが多く、日本に輸入される大豆の多くはアメリカ産です。しかし、アメリカ産であっても自社が森林破壊をせず、生態系へのネガティブなインパクトを予防する形で、大豆調達を行っていることを明示するには、単なる原産国の把握以上のトレーサビリティや、適切な農法の採用等が求められます。

また大豆は、TNFDに限らず、国際的な気候変動情報開示推進NGOのCDPが展開する情報開示プログラムでも、パーム油・木材・牛製品と並び特別に回答が求められるコモディティです。CDPの評価スコアは、事業会社のサステナビリティ担当部署で指標として活用されていることも少なくありません。大豆を生産または調達している企業はもちろん、畜産物(食肉等)、養殖魚、乳製品、卵等の生産時に飼料として間接的に大豆を使用している場合にも、「組み込み大豆」として影響を考慮しなければなりません。こうした企業が大豆に関する情報を開示していない場合、評価スコアに影響する可能性があるため、留意する必要があります。

大豆に対する規制や金融機関からの要請等で高まる外圧

大豆に関するリスクを踏まえ、規制や金融機関からの要請という形で外圧が強まってきています。例えばEUでは2023年6月に、森林破壊防止規則(EUDR)が発効されました。これは大豆、カカオ、コーヒー、パーム油、牛、天然ゴム、木材の7品目を対象した規制で、EUへの輸入に際して、森林破壊・森林劣化及び人権観点でのデュー・ディリジェンスが義務付けられます。適用開始は大企業で2024年12月、中小企業で2025年6月からで、EU域外の日本企業であっても対象品目を販売・流通する際には規制対象となります。義務違反に対しては、製品のEU市場へのアクセスが禁止されたり、最大でEU域内の年間総売上額の4%以上の罰金が科せられるため、企業にとっては経済的なインパクトが想定されます。

さらにEUでは2024年7月に、企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)も発効されました。こちらはEU域内で事業活動を行う企業に対し、サプライチェーン全体での環境と人権に関するデュー・ディリジェンスを求めるものです。CSDDDに基づきEU加盟各国の国内法が整備され、企業は直接的には各国の国内法により規制を受けることになります。適用開始は、最も早い場合で2027年7月からで、EU域外の企業についてはEU域内での売上高に応じて適用時期が異なります。

また地域規制とは別に、金融機関からのプレッシャーも高まっています。世界の機関投資家33社はすでに、2021年の国連気候変動枠組条約第26回グラスゴー締約国会議(COP26)の場で、2025年までに投融資ポートフォリオでの森林破壊撲滅にコミットしています。その後、金融セクター森林破壊アクション(FSDA)というイニシアティブも発足し、アクションを加速する姿勢も見せています。つまり、投融資を受けている企業に対しては、森林破壊撲滅に向けた対応を求めるようになっているということです。

信頼性の高いSSAP認証の取得・開示で、迅速な対応を実現

気候変動、自然資本、人権リスクへの対応が求められる中、大豆のトレーサビリティを確保しようとすると、2通りの手段があります。一つ目は、農家までのトレーサビリティを全て自社で確保すること、そしてもう一つは、国際的に信頼性の高い認証を取得することです。

一つ目の自社による農家までのトレーサビリティの確認については、非常に難易度が高くなります。また日本ではこれまでトレーサビリティが重要視されてこなかったこともあり、原産国以上の把握をできている国内企業は一部の業種を除いて稀です。一方、国際的に信頼性の高い認証であれば、大豆関連企業としてもトレーサビリティの確認を外部に任せることができます。

米国大豆は、日本の食用向けには分別生産流通管理(IPハンドリング)を適用し、種子生産から生産、選別、保管、出荷、流通に至る各段階で、遺伝子組換えや他の品種との混入が起こらないよう、その農産物の純度を厳格に管理、各段階で検査を行い証明書を発行しています。

そしてアメリカ大豆輸出協会 (USSEC)では、この分別生産流通管理(IPハンドリング)の適用に加え、「生物多様性と高炭素ストック」、「保全耕起、輸作、精密農業等の生産活動」、「労働者の健康・福祉と人権」、「生産活動と環境保全」を基準としたサステナビリティ認証プログラムとしてSSAP認証を提供しています。また2024年8月改訂版のSSAP認証では、「先住民族の権利」が新たに追加されました。

米国にはネイティブアメリカンをはじめとした先住民族がいますが、SSAPでは大豆生産者に対し、先住民族の権利に関する国際連合宣言(UNDRIP)や1934年のインディアン再編成法等に基づき、先住民族の土地を、政府の許可なく利用、生産、またはその他の影響を与えないことを規定しています。先住民族を含めたステークホルダーの人権や影響に対するガバナンスは、前述のTNFDでも推奨開示要素となっています。

さらにSSAP認証発行時には、適宜情報を入力いただくことで、購入大豆の生産(米国内輸送を含む)によるカーボン・フットプリント(温室効果ガス排出量)についても自動計算される仕組みも提供しています。カーボン・フットプリントを測定するライフサイクルアセスメント(LCA)では、世界飼料LCA研究所(GLFI)のデータを使用しています。

継続的に取り組みを強化しているSSAP認証は、欧州配合飼料製造者連盟(FEFAC)の「FEFAC大豆調達ガイドライン(2023)」への準拠も認められ、国際貿易センター(ITC)からも他の認証比でFEFACガイドラインへの高い準拠を評価される等、基準の厳しい欧州でも信頼性の高い規格と認められています。また2024年8月には、SAIプラットフォームの農場持続可能性評価(FSA)でも、FSA3.0で最高位の「ゴールド」評価も得ています。

実は日本が米国から輸入している大豆は、全体の7割、食用大豆に限っては9割以上が、すでにこのSSAP認証の要件を満たしたものとなっています。企業は、サプライヤーや輸出者を通じ、アメリカ大豆輸出協会 (USSEC)に申請することで、無料で認証およびマークを取得することが可能です。

認証の取得後には、金融機関を含む外部向けの情報開示も重要です。前述のCDPのように質問表に回答する形式のものもありますが、多くの場合で企業のWebサイト上のサステナビリティページやサステナビリティレポート、統合報告書等の中に明記することで、加点要素となり評価に繋がります。テーマとしては、例えば「持続可能な調達」の一環として記載いただくことで、主な読者となる金融機関としても情報取得や理解がしやすくなるでしょう。

具体的な記載内容としては、大豆調達でSSAP認証を取得していることや、取り扱いのある大豆製品におけるSSAP認証の取得の割合等が、高評価を獲得するためには推奨されます。取り扱い商品のうち特定製品のみでSSAPを取得している場合、まずは同製品の例示から始めていくのも第一歩です。パーム油では、すでに調達企業によるRSPO認証の取得や開示が進められているため、類似した記載方法として参考になります。

情報開示の再、視認性の向上のためにインフォグラフィックを活用するのも良い手段ですが、数値が開示されていれば十分ですので、過度にデザインを心配しなくても問題ありません。またESG評価については、情報が無ければ0点、何か一つでも記載されていれば加点という考え方が基本です。そのため、「認証取得率が低いから一切開示しない」よりも「手始めに認証を取得したことや、小さくともその割合を開示してみる」方が評価に繋がります。

ウェブサイトやレポートへの記載イメージは、例えば以下のような形式があります。

例1:量と割合を数値開示したい場合
・SSAP認証大豆調達量 ●●(トンまたはブッシェル)
・大豆調達量に占める認証取得率 ●●%

例2:経年での進捗状況を示したい場合

2022取得率 2023取得率 2024取得率
USSEC SSAP認証 60% 80% 100%

例3:一部製品のみで認証取得したことを示したい場合
製品Aで、アメリカ大豆輸出協会 (USSEC)のサステナビリティ認証であるSSAP認証を取得しました。

もしSSAP自体の概要の説明も加える場合、SSAP認証ではサステナビリティと保全に関する米国連邦政府が定める法規制体系に基づき大豆生産が行われていることや、分別生産流通管理(IPハンドリング)による遺伝子組換え(GMO)や他品種混入の防止、州レベルでの生産地域の追跡が可能な点等を是非記載ください。その他の詳細については、USSECのSSAP認証ページをご覧ください。