COLUMN

2024年米国研修コラム

米国研修コラム|06

藤橋 ひとみ

株式会社フードアンド
ヘルスラボ 代表取締役
管理栄養士/医学博士

藤橋 ひとみさん

地球や人、広い視点でサステナビリティを 意識したアメリカ大豆から学ぶこと

私は大豆に関する専門家としてメディアで発信する仕事をしています。今回は、日々専門知識を深める中で出てきた疑問点の解消や、米国大豆生産に関わるサステナビリティ及び高オレイン酸大豆油等に関する最新情報のキャッチアップを目的に参加をさせていただきました。
全体的に大変学びの多い内容でしたが、特に印象に残った点を中心にレポートをさせていただきます。

非遺伝子組み換え大豆、有機大豆、コモディティ大豆のプレミアム加工業者

Pence Group

シカゴとインディアナポリスの中間に位置するインディアナ州ラファイエットに拠点を置くPence Group。契約生産者の大豆の選別、袋詰めや種子やカバークロップの研究など様々な事業を行なっている。1万エーカーほどの試験農場を持ち、種子サンプルを受け取って栽培し、収量等の点で優秀なものを、数十種類の品種をテストして検討している。食べる人に最高、育てる人にも最高の種子を育てることを目指している。

※カバークロップとは?
土壌の水分を適切に保つために育てられる被覆植物のこと。窒素を土壌に保つことや雑草の管理にも役立ち、大豆栽培の収量を高めることにも貢献する。オレンジやバナナの栽培で先に行われていたが、大豆栽培では近年になって取り入れられるようになった。40〜50種類の品種があり、一般的には10〜20種類くらいを混ぜて使っている。冬に強く、どの季節でも植えられる品種が向いている。秋に大豆を収穫後、すぐにカバークロップを植える。

  • Pence Groupでの様子
  • Pence Groupでの様子
  • Pence Groupの様子

サステナブルな農法としてアメリカ大豆の栽培で取り入れている“不耕起栽培” では、土壌の湿度を適切に保つことが大切。水が多すぎると植物がうまく育たないため、排水システムが栽培の成功の鍵を握る。農場では、写真のようなポリエステルの黒いチューブを土壌に入れて、水がたまらないように排水している。

  • 土壌中に埋め込まれている排水ポンプ
  • Pence Groupでの様子

パデュー大学の教員、スタッフ、学生に開放される最先端技術を特徴とする研究施設

Purdue Corn & Soy Innovation Center

Indiana Corn &
Soybean Innovation Center

生産者、Indiana Soybean Alliance等からの資金によって設立された、600ヘクタールほどの試験農場を持つ、大豆とコーンをはじめ商業用の品種を様々扱っている研究施設。ここには、パデュー大学の農学部・工学部の学生や研究員が出入りしており、農学の分野では主により良い品種の開発、工学の分野では農業の効率化につながるドローンなどの様々な最先端技術を研究している。建物の構造は、それぞれ異なる分野の人材が交わるよう工夫されていた。

  • 研究施設の様子
  • 研究施設の様子
  • 研究施設の様子

今回は、研究室の中まで入り脱穀機やシードカウンターなどの様々な設備を見学した。

  • 研究室
  • 脱穀機
  • シードカウンター

実際に商業用のドローンを飛ばしているのも見学し、一同大興奮! 農場ではドローンは、除草剤や殺虫剤、肥料をまく際にも使用される。
研究では、フェノタイプ(植物の表現型)を測定するためにも使用され、膨大なデータを取得することができる。

  • 見学の様子
  • 大豆
  • 大豆
  • ドローン
  • ドローン飛行見学
  • ドローン飛行見学

大豆農場

Christopher Farms

Eck Family Farming

David & Mary Howell Farm

今回は3箇所のアメリカ大豆の農場へお伺いして、実際に農家さんにお話を伺った。
視界いっぱいの農地の広さも、トラクターなどの農機の大きさも…何もかも日本とは桁違いなスケール!

  • 視界いっぱいの農地
  • 視界いっぱいの農地

通常、大豆はコーンと輪作するため農場では両方を作っている。それぞれの割合は、周りの農家や需要とのバランス、利益性をみて決めているとのこと。
※写真で青々としているのはコーン

どの農場でも不耕起栽培が行われていた。

  • トラクターなどの農機
  • トラクターなどの農機

Christopher Farmsでは、収穫時期がずれる小麦と大豆の二毛作を試験的に実施していた。小麦を作ることで収穫もできるメリットがあるそう。このように複数の作物種を、同時に、同じ圃場で栽培する農法栽培方法を“インタークロッピング”と呼ぶ。

  • Christopher Farmsの様子
  • Christopher Farmsの様子

今年は雨が多く大豆の作付けが遅れているようで、残念ながら一面青々とした大豆農場を拝むことはでなかったが、カバークロップに覆われている地面の合間から、小さな大豆の子供たちが顔を出し、スクスク育っている様子を見ることができた。
通常は、9月の半ばから収穫シーズンに入る。7~8月初旬に雨が多いと好ましいそう。

驚くことにアメリカの大豆農家さんの95%以上が家族経営。
年々、農業人口が減っており、人員の視点でも持続可能性が大切だと農家さんは語っていた。

  • 大豆農場
  • 大豆農場

インディアナ大豆アライアンス

Indiana Soybean Alliance(ISA)

今回訪問したインディアナ州はアメリカで32番目の大きさ。農業はNo.8、大豆はNo.5(輸出は大豆がNo.1)。
農家個々の農地はあまり広大ではなく、250エーカーが平均サイズ。

ISAでは、次の4つの戦略で教育・研究・広報活動を行っている。

1. 市場開発、消費者教育
クッキングコンテストなどでソイオイルの認知度アップを図っている。

2. サステナビリティ
農家にサステナブルな農法を普及している。

3. 価値の創造
ソイオイルを石油代替、プラスティック代替に使用するなど、新たな需要を創出する研究活動を行なっている。

4. 生産者のエンゲージメントを高める
ソイオイルを使用して生産されたタイヤを使った救急車や消防車の寄付などを通して、社会にソイオイルの価値を伝える啓蒙活動を行っている。

  • 視界いっぱいの農地

大豆国際カンファレンス

Soybean Oil Masters Celebration Day

植物油脂の最近の市場動向や米国大豆のサステナビリティの近況、大豆製品全般に関する健康情報など、さまざまな視点から大豆に関する情報を得られるカンファレンス。

  • カンファレンスの様子
  • カンファレンスの様子

通常の大豆油とは脂肪酸組成が異なり、オレイン酸が豊富なハイオイレイン酸大豆油(HOSBO)に関する最新の情報も得ることができ、興味深かった。

  • カンファレンスの様子
  • カンファレンスの様子

カンファレンスでは、webを通して簡単に質問できるシステムが導入されており、そこに投稿されている大量の質問を見ることで参加者の興味・関心の対象を知ることができたことで、より一層視野が広がった。

自身もいくつか質問をした中で印象的だったのが、アメリカで健康分野のエキスパートとして活動されている方に「大豆が健康に与える影響に関して、正しい知識を消費者に広げるには、どんな取り組みが効果的だと考えるか?」と聞いた時にいただいた次の回答。「きちんとエビデンスを提示しながら、何度も根気強くコミュニケーション(情報発信)をすることが大切」とおっしゃっていて、ここできちんとエビデンスの重要性の主張が第一に出てくるのが、さすがだなと感激。日本ではまだまだ遅れている “EBN…科学的根拠に基づく栄養学” の考え方が進むアメリカらしさを実感したシーンでもあった。レクチャーでも脂質に関する5つのFan Factを紹介していたが、まだまだ日本の消費者に知られていない大豆油に関する知識があると感じるので、今後も知識を広げる活動に力を入れたい。

ちなみに…
皆さんは、大豆と健康に関するエビデンスが、Soy Nutrition InstituteのWEBサイトにまとめられていることをご存知だろうか?
https://sniglobal.org/#in-the-know
英語サイトではあるが、Google Chromeなど翻訳機能付きのブラウザで見ると日本語で読むことができるので、ぜひチェックしてみて欲しい。

今回の視察研修を終えて

アメリカの広大な大地に立ち、世界中から集まった参加者の方々と関わる中で、世界は広く、私たちの食卓は様々な人たちが関わって成り立っていることを実感しました。そして、実際にソイオイルに関わる大豆生産者、加工業者、研究者の方々に直接質問できる貴重な機会をいただき、公開資料だけでは学べないことをたくさん教えていただくことができました。

単に「輸入大豆=遺伝子組み換えだからよくないのでは?」…というイメージをお持ちの方もいらっしゃるのではないかと思います。でも、実際のところは、そうとは言い切れません。 これからの時代、私たちは一消費者として溢れる情報の中から適切なものをジャッジし、自分の軸を持って、口にするものを選択する力がより一層求められます。 巷の情報を鵜呑みにして、流されて不安になるのではなく、多角的な視点を養い、考える力をつけることが、心地よく生きる力に直結してくると感じます。

研修の中では、世界情勢・社会の変化と大豆の関わり、サステナビリティや、大豆に関する健康の話など様々な視点から学びを得られたため、「自分自身の健康、そして人類、地球環境の持続可能性を考えた時に、様々な選択肢から何をどう選ぶ必要があるのか?」を広い視野と多角的な視点を持って考える力が養われたのではないかと感じます。

米国産大豆をはじめ、海外からの輸入食品に対しては、なかなか作り手の顔や食卓に並ぶまでのストーリーが想像できず、国産食品に比べて冷たく無機質な印象を持ちがちかもしれません。しかし、実際に生産地に赴いて、関わっている人々の顔を見て、温かいおもてなしを受けると、感じ方や捉え方がグッと変わり、一気に身近に感じられることを実感しました。ぜひ、皆さんにもソイオイルマイスター”プロ”を取得していただき、この感覚を体感していただきたいです!

運営団体

アメリカ大豆輸出協会(U.S. Soybean Export Council:USSEC) は世界80ヶ国でアメリカ大豆の市場拡大や輸出のプロモーションをおこなうマーケティング機関です。USSECには優良な輸出業者・大豆生産者・政府機関・関連団体等がメンバーとして所属しております。

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